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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)8134号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕原告ら先代吉田富次郎は昭和三五年一二月二六日午後二時二〇分ごろ原動機付自動車で東京都中野区江古田三丁目一三五四番地先交差点を東西に通ずる幅員七・四米の道路の略々中央を東から西に向つて通行中、同交差点を南北に通ずる幅員五、四米の道路を南から北に向つて進行してきた被告会社の乗合自動車の右側前部に激突され、死亡した。みぎ事故は被告会社運転者の過失に基因するものであるから、自動車損害賠償保障法第三条の規定により被告会社に対し、原告ら各自の相続分に応じ損害の賠償を求めると主張した。

被告会社は被告会社運転者永田に運転上の過失なく、本件バスに構造上の欠陥、機能上の障害もなく、本件事故は全く被害者たる原告ら先代の過失によつて生じたものであるから被告に損害賠償の責任はない。すなわち運転者永田は事故発生直前本件バスを運転して南北道路を北進し時速二〇粁弱の低速力で本件交差点にさしかかり運転者席が交叉点の南端の線まで来て右方すなわち本件東西道路の東方を見透したとき、東方一四ないし一五米の地点を時速四〇粁以上の速力で西進してくる原告ら先代の自転車を発見したが、当然自転車が交差点手前で停止すると信じ進行を続けたところ、いつこうに停止措置をとらないので直ちに本件バスの急停車措置をとり、約八米弱惰力進行して停車したが、自転車はそのままのスピートで猛進して本件バスの右側にぶつかり本件事故となつた。ところで本件交差点は東西道路、南北道路いずれの方向からも見透しが悪い場合であるが、東京都公安委員会は本件南北道路が平常被告会社の新宿駅西口、中村橋間の乗合自動車その他の自動車の運行が頻繁であるに反し、東西道路は人車の往来が少いので南北道路の方が巾員が狭いのに、右交通状況により特に必要と認めて東西道路の方の交差点の手前に一時停止の標識を設置しているので道路交通取締法上は南北道路走行の本件バスの側に条件ないし一時停止の義務はなく、逆に東西道路走行の自転車の側に交差点手前における一時停止義務が課せられているのである。のみならず本件交差点に先に進入したのは本件バスであるからこの点からも原告ら先代は停止の義務を負つているのであつて、本件事故はもつぱら一時停止を怠つた同先代の不注意に基因するものであると抗争した。

判決は本件交差点の状況、衝突当時の両車の速度、衝突当時の両車運転者の措置等に関して被告主張どおりの事実を認定した上、被告車運転者にも過失の責任があるとしてつぎのとおり判示した。曰く。

「本件事故に関する過失の有無を考えるに、被害者富次郎が、本件東西道路上には前記のように本件交差点の手前に東京都公安委員会による一時停止の標識が存在し、かつ、本件バスが富次郎の運転する本件原動機付自転車よりも先に本件交差点に進入しているにもかかわらず、かかる場合において当然なすべき右交差点手前において一時停止をし、本件バスをやりすごすだけの措置をとらずそのまま交差点に進入した点において重大な過失があり、これが本件事故発生の最も大きな原因をなしていることはこれを否定することができない。しかしながら、他方本件バスの運転者たる永田の側にも、その運転上全く過失がなかつたともいいきれない。すなわち、まず、本件交差点における左右の見透しのきわめて不良であることは前記のとおりであるところ、文書の体裁によつて成立を認めうる乙第二七号証によれば、時速二〇キロで走行する自動車につき急停車の措置をとつた場合には、乾燥したアスファルト道路で通常二・六メートルの制動距離を要し、本件の場合上記のようにブレーキペダルに足を載せていつでも制動動作をなしうる状態であつたことを考慮に入れていわゆる空走距離を少なく見積つたとしても、なお二メートル前後の空走距離を要し、全体として停止距離は四メートルを超えるものであることが認められるから、仮に水田が本件南北道路において本件交差点の最初に左右を見透しうる地点まで到達して直ちに危険を認めて急停車の措置をとつたとしても、時速二〇キロで運行中のバスはその尖端部が原地点から更に六メートル余の地点まで到達して始めて停止しうる関係となるわけであり、本件東西道路の幅員は七メートル三〇センチであるから、右の場合にはバスはほとんど道路いつぱいに横たわる状態となり、東西道路を走る車両がその直前において停止しない限り、両者の衝突は避け難こととなるわけである。したがつて、かかる交差点を横切ろうとするバスの運転者としては、東西道路の交通状況を見透しうる地点に到達した時は、同所で一時停止の措置をとらないまでも、右地点で左右を注視して危険を認め直ちに急停車の措置をとつた場合に左右に走る道路の中央線より手前で停止しうる程度に減速するのがその当然採るべき措置というべきである。もつとも本件東西道路には前記のように一時停止の標識が存するから、右道路を進行する車輛は当然交差点の手前で一時停止することを期待してしかるべきものであり、したがつて南北道路を進行する自動車運転者に対して右のごとき措置をとることを要求するのは著しく苛酷であつて妥当な解釈とはいえないといわれるかもしれない。しかしながら、前掲甲第一〇号証、乙第二、第一一号証によれば、本件交差点付近における交通量は昼間においては比較的閑散であることが認められ、このような交通事情の場合には、一時停止の標識にもかかわらず、往々にしてかかる停止措置をとらないでそのまま交差点を横断しようとする車輛が存するのが現実の実情であり、殊に永田証人の証言によれば、同人自身バスの運転中に本件交差点において一時停止しないで通過する車輛を目撃したことが時々あることが認められるのであるから、平常右交差点を通過し、かかる交通事情を知るバス運転者としては、右交通停止の標識の存在のみに依拠し、漫然すべての車輛が一時停止の措置をとるものとする期待の下にバスの運転を行なうことは、少なくとも自動車損害賠償補償法第三条にいう自動車の運行に関し不注意があつたものと解するのが相当である。」

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